単独登山での遭難体験記 遭難で学んだ山の恐ろしさ

私が以前単独登山で遭難したときのこと等書いてみます。

鈴鹿山系は平日ともなれば人もまばら。しかもほとんどの人はメジャーなルートを選択するので、たまに違うルートを歩いていると思わぬトラブルに巻き込まれることもあります。

今回の遭難体験は、恥ずかしい限りの普段登りなれた標高のそんなに高くない山での話です。

何度も登っていてルートも把握してるはずでしたが、ふと気づいたときには手遅れという状態になっているのが遭難のあるあるパターンだと思います。

見慣れた山の登山で遭難に繋がった要素を振り返る

登山をするときには計画の段階でルートを選定しますが、初めて行く山で遭難することはあまり聞きません。これは、ガイドに載っているようなメジャールートを選択していくことが多いので、道もしっかりして案内や目印も管理されているのが一番大きいと思います。

しかし何度も行ったことがある山で、登りルートや下山ルートが複数ある場合は十分に吟味したほうがいいです。

ルートの中にはいわゆるマイナールートというものがあり、遠回りになったり道が急などの理由でほとんど人が足を踏み入れないルートがあります。

ルートそのものがガケ崩れなどで封鎖されている場合はまだいいです。封鎖されていない場合には、問題無く進めるとみて進んだ挙句に遭難したことがあります。

慣れた山でマイナールートへ踏み込んでからの慢心

時間的に早く下山をしたかったこともあり、いつもとは異なるルートで、道は急であるが時間短縮できそうな普段使わないマイナールートへ踏み込んだことがそもそものきっかけです。

しばらく進みだして気が付いたのですが、明らかに人が歩いた形跡が無い・・・

登山ルートというのはほとんどの場合、硬い山靴で歩くので人の足跡やトレッキングポールのついた後が点々としていてルートであることは容易に分かります。

これが人がほとんど入らないマイナールートの場合、ほとんど無いか落ち葉などに埋もれて消えてしまっているので、獣道と区別がつきません。下手すれば目印も剥がれかけておりゴミとなって落ちていることもしばしば。

こうなると登山道を判別するには、以下の3点が頼り。

  • しっかりと道として認識できるかを適時振り返る
  • 木にくくりつけられた目印を探しながら進む
  • 地図とコンパスで現在地を把握しながら進む

基本的なことですが、全てをしっかりと意識して登っている人は少ないと思います。これらを駆使しなければ、低い山であっても道を見失うことがあります。

しかし慣れた山であるという慢心が、これら基本的なことを忘れさせました。

山の中で孤独な闘いは精神的に辛い

私が以前思わぬ遭難にあったのが、鈴鹿山系竜ヶ岳。もうすでに20回以上登っている慣れ親しんだ山でしたが、いつも同じルートで登っていました。

そこで違うルートを通ろうと思い、「中道」というルートから下山しようと画策。ここは登りは急登になる上に少し距離が長いので、あえてここを進む人はほとんどいません。多くの人は遠足尾根から登り、国道へ降りるルートを進みます。

登り始めたのも遅かった(10時位)のがいけないですが、季節は秋。秋風に吹かれ写真を取りながらのんびり進んでいました。まともに進めば往復4時間で行くペースだったのですが、気楽な独り登山で思いのほかのんびりしてしまいました。

さて下山開始。中道登山道を降りていきます。

軽快に降りていくのもつかの間、樹林帯に入ったあたりでどうもおかしいことに気づきます。落ち葉の積もっている量が異常に多く、登山道と認識できないくらいにフサフサ。足をとられて何度も転びかけました。

これはあまり人が入っていないなと思い、少しペースを落として進みます。

このような道が続いたことと、いつもの慣れでがんがん降りていたのが災いし、ふと気づくとルートを外れているのではないかと思い立ち止まりました。このときすでに遅し。

鉄則どおり引き返せばよかったのですが、落ち葉に埋もれた山肌の風景は全く変わらず、何を思ったか目印を探せばいいと進んでしまったのです・・・

完全に道を見失い、遭難したと認識

気付けば自分の周りは樹木に囲まれ、確実に道ではないことに気付きました。

人間って焦ると本当に駄目ですね。冷静に落ち着くというのは何度も修羅場を重ねた人にしかできない神業です。完全に道を見失うと、どうすればよいのか思考が止まります。

辺りは樹木に覆われてコンパスでの位置確認もできず、歩いた道を引き返そうと進みましたが、歩いているうちにも不安になってとにかく降りなければという考えが先行してしまいました。

登山道でない場所というのは、まともに歩けたものではないです。

草木を乗り越え石をまたぎ、ペースもどんどん落ちて疲労と焦りだけが蓄積します。秋ということで夕暮れは早く、空が赤くなると一層焦ってきます。

とりあえず地図を見ながら、今までの記憶をたどって傾斜と現在地周辺の地形からおおよその位置を割り出します。しかしおおよそでしかないので、確実にルートに当たるであろう方角をコンパスで確認しながら進むしかありません。倒木を乗り越えたり岩を迂回するうちに方向はどんどん狂うのでコンパス片手に進みます。

いよいよ日も落ちかかってきましたが、景色はさほど変わらず。慣らされていない本当の山の斜面を下るのがこんなに時間がかかるものとは想像もしていませんでした。

日没間近、川の流れる音に救われる

もう無我夢中で時折叫びながら進んでいたと思います。

ようやく希望が見えたのが、川の流れる音!

川はキャンプ場まで続いている上に、川沿いのルートもあるので、川にさえでれば助かると思いました。

すでにあたりは暗くなってきています。山は人工の明かりが無い上に木々にさえぎられるので暗くなると本当にあっというまです。

なんとか川にでることができ、幸いにも見知った風景。これはと思い周囲を散策すると、ようやく赤いテープを見つけることができました。

驚いたことに下っていたと思っていたのはただ山肌をトレースしていただけで、うろうろしていただけのようです。

遭難

安堵の時もつかの間、辺りは夜の闇に落ちようとしています。

時刻は6時過ぎ・・・本当にギリギリ助かったと思いました。

しかしここでも落とし穴が・・・

日帰りの予定なので、サブザック一つで来たため、ヘッドライトを忘れていたのです。

この闇ではいくら登山道でも歩けません。下手したらまた道を外れる可能性もあります。

仕方なくスマホの懐中電灯機能を使い、おそるおそるゆっくりと歩を進めました。

朝早くて暗いのと、これから夜深くなるのとでは恐怖感がまるで違います。夜は完全に人間の行動領域ではない為、辺りは聞いたことも無い動物の鳴き声や音で生きた心地が全くしませんでした。

キャンプ場に着いたのが8時過ぎ・・・

疲れと恐怖感から開放された安堵感で、駐車場の車の中でぐっすりと寝てしまいました。まだ車だったから良かったものの、電車とかであれば時間によっては帰れなかったでしょう。

通いなれた鈴鹿のメインステージで思わぬ教訓を叩き込まれた一日でした。

今でも当時のことを思うと身の毛よだちます。最終的には暗い中を降りてきてしまいましたが、当時の判断が正しかったかどうかは今でも答えは出ません。知った道に出れたからこそ強行できたと思いますので、これが見知らぬ道や迷ったままであれば確実にビバークでしょう。

その時々の状況で選択は変わります。遭難ばかりは経験を積もうと思っても積めないので、山に入るときは必ず自分の中で最悪の状況をシュミレーションするようにしましょう。

単独登山の遭難で得た教訓とまとめ

たとえ低い山であっても、登山道とそうでない道では状況は一変します。人が歩ける登山道がどれほど有難いかが身にしみました。

日帰り登山であっても、非常食とヘッドライト、ツェルトとまでいかなくても緊急用シートは持っていくのをおススメします。

遭難は慣れた山でも簡単に起こりえます。慣れているからこそ、道を外したときの鉄則を軽視し遭難につながるということを実感した次第です。

自分が行ったことの無い山に行くときは、必ず整備されたメジャールートを選んでいくのをおすすめします。慣れた山で違うルートを選ぶときは、初めての山を登るつもりで慎重に進むようにしましょう。

最後に、おかしいと思ったら必ず引き返して道を探すこと!

どんなに慣れた低めの山でも甘くはありません。